チャレンジャーバンクをめざすKyashの創業者が描く「お金の未来」とは?(後編)
様々な決済サービスが次々に登場するなど、キャッシュレス社会に向けてフィンテック分野が盛り上がりを見せています。
今回Wahl+Caseでインタビューさせていただいたのは、ウォレットアプリ「Kyash」を提供している株式会社Kyash CEOの鷹取真一さん。2019年より、APIを開放してパートナー企業が迅速・安価にVisaカードを発行できる「Kyash Direct」の事業も展開しています。「価値移動のインフラを創る」というミッションをもとに、革新的なサービスを生み出す起業家・鷹取さん。記事の前編では、Kyashのめざす世界観や起業に至った経緯を、そして後編では、仕事の醍醐味や今後のビジョンを中心にお聞きしました。
――Kyashの経営で壁にぶつかった経験はありますか。
実は壁にぶつかったという感覚は、あまりないのです。「この方法が難しいなら、じゃあ別の道はないか」と、理想を実現するための手段を新たに探せばいいと考えることが習慣になっているからなのかもしれません。
そもそも起業したばかりの最初の最初、DAY1は私一人。当時と比べると、専門性が高く、心強いメンバーがKyashのミッションに共感してジョインしてくれている。DAY1よりははるかに前進できているわけです。
大事なのは、既存サービスの延長でビジネスを構築するのではなく、あるべき姿を想像し、それを創り出すためのロードマップを引いて、着実に具現化していくことだと考えています。そして、それを実際にしてきたことによって、外部のステークホルダーやチームの支援と共感が得られました。、そして、そうした力が事業の推進力になってきたのだと感じています。
――Kyashの従業員インタビューなどを見ていると、一体感の強いチームというのが伝わってきますよね。
現時点で49名(2019年8月時点)のメンバーがいますが、みんなKyashのビジョンやプロダクトの世界観を好きでいてくれているのがありがたいですね。メンバーとは、一緒に未来の生活とそれを支えるインフラをつくっていこう、という意識でいます。今後は事業を進化させて前進していく時間はもちろん、ビジョンを社内にもっと浸透させて、熱量を高めていく時間も増やしていきたいと思っています。
――Kyashの代表として、いまの仕事でやりがいや醍醐味を感じる瞬間はどんなときですか。
やりがいを感じるのは、社会性のあるプロダクトを創り上げているという実感を得たときですね。例えば、2018 年6月にリアルカードを発行したとき。アプリだけではなく、リアルの世界でも使われるプロダクトを世に提供できたのは感慨深かったですね。これをきっかけに「Kyash」の認知度や利用度が一層高まりました。
また、社内以外でも、私たちのサービスが当たり前のように利用されていたり、サービスが話題になっていたりするのを目にしたときは、嬉しいと感じます。私たちがめざすのは、水道や電気のように当たり前に存在するインフラですから。
そうした存在になっていくためには、使ってくれる人々の期待を適度に越えていく、バランス感覚も大事になってくると考えています。あまりにも革新的すぎて、「一般の生活者の感覚ではピンとこない」と思われてしまうと、人々の生活に溶け込んでいきません。かといって現状に合わせすぎても、未来が変わっていくワクワク感が伝わらない。そのため、多くの人がイメージできるような、少し先の未来を描きながら、社会のみんなと一緒に世界観をつくっていくという意識を大事にしています。
――日本の金融やFinTechの動向で、鷹取さんが注目している動きについて教えてください。
現在、あらゆる領域でIT化が進み、様々なことがリアルタイムに実現されることが当たり前になりつつある。例えば、ECサイトではほしいと思ったときに洋服を注文できます。同様のことが、金融・FinTechの領域でも起こってくると思います。借りたいときにすぐ借りられるとか、保険を超短期でもかけたいときにかけられるとか。
特に注目している動きは、給与の受取の方法の多様化ですね。銀行口座に現金を振り込むだけでなく、FinTechベンチャー企業の提供するアカウントへ給料を電子マネーとして送金するといった方法も可能になるでしょう。
他にも、2019年10月1日の消費税率引き上げに伴い、経済産業省が進めるキャッシュレス・消費者還元事業にも注目しています。このタイミングで、これからどんなFinTechプレイヤーが主流になっていくのか、情勢が整っていくのではないかと見ています。
また、インバウンドの拡大と移民の増加も、注目すべきトレンドの1つです。日本で銀行口座をつくる際など、「外国における”信用”をどう日本国内に移すか?」という問いが議題に上がりはじめています。外国人労働者人口は増加する一方ですし、国を越えて”信用”を担保するために、グローバルな機関や情報とどう接続するのか?という問題が無視できないスケールになっていくでしょう。そのとき、国を越えた金融機関の協調体制も求められていくのではないでしょうか。
また、クリエイティブな世界での、価値の受け取り方も変化が起きてくると予測しています。この2、3年の間で、個人が感動した作品や応援したいクリエイターにP2P(Peer to Peer)のような形で支援でき、クリエイターがダイレクトに価値を受け取れる仕組みができるのではないか。これは私たちがめざす価値循環の姿にも通じるものです。
――今後のビジョンをお聞かせください。
ユーザーを真ん中に置いて、あるべき金融の姿を実現させることです。それが、まずは「お金=価値」を自由に届けられる価値移動のインフラを創ることであり、その第一弾として、「チャレンジャーバンク構想」を実現させていきたいと思います。チャレンジャーバンクとは、銀行ライセンスを取得して行うビジネスのことではなくて、銀行が提供している機能をモバイルアプリ上で提供するFintechビジネスのモデルのことです。例えば送金を始め、現金の引き出しや預金、給与の受取、レンディングなど、をそれぞれのライセンスを取得することで実現していくのです。手の平にあるスマホの中に銀行機能が全てあるとイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
こうして、お金を自由なもの、滑らかなものにしていき、社会に変化を与えていきたい。それと同時に、経済活動のスピードを圧倒的にはやめるなど、経済を高め、強いものにしていくことにも貢献していきたいです。