多様性を通して革新を促す先駆者に聞く、enjoiのめざす世界観(後編)
多様性と革新を促すコンサルティング事業、ワークショップ開催などを事業の柱とするenjoi D&I(https://en-joi.com/)。
創業者で政治学の研究・実践者として約20年のキャリアをもつスティール若希さんに、この事業の意義、日本企業の課題、それを解決するための具体的なステップについてお聞きしました。
(前編はこちら)
若希さんは現在の日本社会において、今後どのような役割を果たしていくのでしょうか。
これまでの研究と実践を通じて、私の使命は、公共政策と企業の多様性の文化醸成をつなげていくことだと思い始めました。学者の立場だけでなく、経営者のためのコンサルティング事業を通じてなら、企業内のリテラシー(能力)の指導に関わることができます。
「個の尊重と男女平等の実現が自社の持続的な成長、革新に欠かせない」。そうした差し迫った課題意識をもっている民間企業の経営層に働きかければ、より効果的に達成に寄与できると思いました。まずはインパクトのあるところに働きかけていきたいと考えたのです。
コンサルティング事業なら、経営層と対話しながら彼らのリテラシーを高めることができ、一緒に共創することができる。自分の専門性をそこに投資したほうが、投資対効果が高いはずです。enjoi D&Iのロゴの意味は、差異を乗り越えて「縁」をつくっていくこと。こうして多様性の「おかげで」革新が生まれていくという世界を体現していきたいですね。
具体的にどんな解決策を提供していくのでしょうか?
まずは、コンサルティングを通じて、「個人の尊重と多様性のエコシステム」の全体像について経営層に理解していただくことをめざします。これはコーチングに近いといえるでしょう。
次に、3時間のワークショップを通じて、企業の経営陣や管理職たちに、そのエコシステムを実現するための能力を身につけてもらいます。自分のなか固定観念や偏見に気づいてもらい、自分に対する批判的な目を養い、それを身体に染みこませていく。それができれば、自分たちで動けるようになりますし、パラダイムシフトが生まれていきます。
ポイントは、個人の尊重と多様性の世界観の実現に向けて、やる気がある経営層や管理職を精査することです。本気で組織を変えていきたいと考える人たちと協力するのは、とても知的好奇心をくすぐる過程となるでしょう。
多様性と革新のエコシステム構築に向けて動きたいと考えていても、社内の環境を具体的に変えていくのは難しいと感じている人は多そうです。たとえば、企業が管理職の女性を増やすにはどうすればよいのでしょうか。もしスタートアップの経営者が取り組むとしたら、具体的な改善のステップを教えていただけますか。
個々のスタートアップの事情にもよりますが、1つ目のステップは、「経営理念」を見直すことです。経営理念というのは、社会契約の思想に則って考えると、「企業にとっての憲法」といえます。まずは理念に従業員が本当に共感できているか、創業者の生き方や創業当時の思いが理念ににじみ出ているのかを確認するとよいでしょう。スタートアップでは「実行」ばかりが優先される傾向にあります。すると、企業内でのあるべき接し方、役割分担、協力する際の指針などの共有にまで時間が割けないまま。これは、雇用契約のみ成立していて、社会契約が成立していない状況といえます。
経営理念を見直す場合には、中立な立場の人をファシリテーターにして、従業員の共感が生まれるような場を設けるとよいでしょう。経営層は、従業員たちとの間に連帯感、所属感、そして信頼関係が構築できているかどうか、見守り、支援していかないといけません。共感が芽生えれば、従業員は単に雇用された身から、当事者意識をもった一員へと変化することでしょう。
2つ目のステップは、経営理念・思想を組織内の施策に思想を染み込ませていくことです。たとえば、子育て中の人とそうでない人ととの間の不平等をなくす、個人の尊重や企業内の平等を促すために、リモートワークなどの柔軟な働き方を認める。そして、その施策を経営層や管理職層が率先して実行に移していく。これにより現実的に職場を変えていくことができるでしょう。
3つ目のステップは、みんながそれぞれの視点をもち、支え合うことで、多様な方向性から組織を取り巻く世界の全体像を知ろうとすることです。これにより、「お互い様」というセーフティネットができていき、組織の盲点を減らすことができる。すると、よりよい意思決定ができるため、企業のリスクが減り、組織のパフォーマンスも高まっていく。それが長期的な革新につながります。
企業内のメンバー個人にできることは何でしょうか?
まずは自分自身の「人間性の多様性」を見つめ直し、認めてあげることです。自分のなかにはたとえば、女性、娘、配偶者、従業員、スポーツが大好きなど、多様な個性・人間性があります。これらを1つ1つ把握して、受容していきます。そのうえで、今度は接する相手の「人間性の多様性」を認めるのです。そして、多様性は学びの宝庫であり、成長できるチャンスがあるということ。それに対する感謝の気持ちをもつことです。自分と相手の違いに興味をもち、それを深くしることで、自分の成長の糧にできるといいですね。
1枚の写真の全体像を知るには、みんな異なる方向からとらえた像を集めていくことが必要です。そうしてはじめて、盲点を減らすことができ、「集団思考」に陥らずに、完全な全体像が見えていくことでしょう。
私自身もenjoi D&Iの事業を通じて、多様性と企業内の平等について企業の人々に啓蒙していけたらと思っています。