ビジネスに特化した、人工知能のスペシャリスト養成で、日本や世界に変革を巻き起こす――シナモンの新たな挑戦に迫る――(後編)

シナモン代表取締役 平野 未来さん

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東京大学大学院修了。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。iOS/Android/ガラケーでリッチなUIを実現できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をmixiに売却後は、2012年にCinnamon(シナモン)をシンガポールに創業し、ベトナムやタイに拠点を開拓。ビジュアルなプライベートコミュニケーションサービスでアジアNo.1をめざし動画アプリTuyaを開発・運営し、新たに、人工知能に関する事業に挑戦されています。人工知能事業の背景や構想について、初めてインタビューで語っていただきます。

(前編はこちら

導入企業にどんな効果が生まれているのかについてお聞かせください。

平野:シナモンで開発している一例が、人材紹介のチャットボットです。チャットボットとは、人間の代わりにコミュニケーションを自動で行ってくれるプログラムや、それを含んだシステム全体を指します。チャットボットが日本の一般ユーザーの間でも使われ始めるようになったのは、2016年の春頃という、つい最近のことです。

チャットボットを使えば、予約のような簡単な調整が自動化できます。人材紹介業界だと、応募者とクライアント企業のそれぞれに、面接候補日を尋ねて、日程を調整するのに、平均で3~5往復のやり取りが生じ、一件あたり30分程度かかっています。

これを、人間を介さずにAIで自動化すれば、人は、人間にしかできない仕事に専念できるようになります。将来的には、クライアント企業の特性と候補者の経歴・資質を登録して自動マッチングができるようにし、面接のリマインドやアドバイスを自動で候補者に送信するようにするなど、まだまだAIに託せる領域は大きいでしょう。

もちろん、予約のような簡単なコミュニケーションの場面は他の業界でもたくさんありますよね。例えば、医療にチャットボットを導入すれば、「おなかがいたい」という患者の言葉に対し、「いつからですか?」「昨日は何を食べましたか?」といった問いが自動的に投げかけられ、簡易的な診察が可能となります。ですので、病院で長い間待たなくても、「まずは様子を見ればいいのか」「何科に行けばいいのか」といった大まかな判断ができます。とりわけ小さいお子さんを抱える人にとっては、夜に突然、子どもの具合が悪くなったときに、まずはチャットボットで一次的な対処の方針を知れるので、非常に役立つのではないでしょうか。これは現在の医師不足解消の突破口にもなると信じています。

医療だけでなく法律相談や節税相談など、専門職がやっていた分野はAIが得意とする領域です。

チャットボット、大活躍ですね! AIは今後どんな業界で横展開ができそうだと考えていますか。

平野:AIはマーケティングでも大いに力を発揮してくれます。テクノロジー系の企業以外ですと、徹底的にABテストを行う習慣がまだあまりないかもしれません。ですが、できる限り色々なパターンでABテストをくり返すと、売上がかなり変わってきます。

例えば出版の世界だと、本の表紙が大きく売上を左右しますよね。文字のフォントや表紙の色を微妙に変化させて、どちらが顧客の反応がよかったのかを探っていくABテストを、AIに任せれば大量に比較できるので、よりスピーディーに、よりターゲットの心をつかむ本の表紙を決めることができます。

今後は海外展開を見据えているのでしょうか。

平野:ベトナムやシンガポール、タイにいると、東南アジアの面白い点は、国のトップの権限が強いため、何かサービス導入について政府がGOサインを出せば、導入が一気に進めるというメリットがあるんです。これって、規制だらけでUBER(ウーバー)の導入がなかなか進まない日本と対照的ですよね。

AIの海外展開という点で、東南アジアは可能性の宝庫だと見ています。もし盤石のAIシステムができれば、海外展開がしやすいので、各国で普及していけば、将来的には日本のGDP増にも大きく貢献できるのではないかと考えています。

平野さんは、その鋭い戦略眼をどのようにして養ったのですか。

平野:東南アジアで起業していたとき、現地の官僚や政府系ファンドの人と交流するうちに、東南アジアにチャンスが眠っていることに気づくようになりました。日本にいて本やネットから情報を得るだけではわからない現地の情報は、その土地に滞在し、現地の人と話しているからこそわかるのだと思います。ですので、日本にとどまらず現地に直接行って、その国の状況を体感し、現地の人と話していくことが、自然と役に立っている気がします。

今後のシナモンでの構想を教えてください。

平野:まずは、ビジネスに特化したAIのスペシャリストを育成できているので、このスピードを加速させ、各業界に横断的に優秀な人材を送り込んでいきたいと思っています。これを5年続けると、100名近くのスペシャリストがビジネスの世界に巣立っていくので、インキュベーターのような立場で、大企業や政府系ファンド、スタートアップなどの人材強化に寄与していきたいですね。また、現時点だと、AIに対する興味や理解のある人が少ないので、AIがいかにビジネスの現場で活用できるのか、人材が大事なのかという点を、日本に普及できるような発信もしていきたいと考えています。AIで日本や世界に革命を起こしていくハブになるために、やることはたくさんあるので、今後が楽しみです。