福岡市を拠点に画期的C to Cビジネスに挑むフランス人起業家たち
企業と学生をつなぐクラウドソーシングサービス「ikkai」。個人または企業が地元の学生に一回限りの仕事を依頼できるインターネット上の市場を提供しており、2016年春に本格リリースを予定している。Start Up Battle of Skyland Ventures Fest Tokyo.では、ファイナリストの10社に選ばれるなど、注目が集まっている。共同経営者のYasmine Djoudi氏とThomas Pouplin氏に、サービスの特徴や福岡市スタートアップを活用して事業を加速させることのメリットについてお話を伺った。
ikkaiのサービス概要と特徴を教えていただけますか。
Thomas:ikkaiは、個人や企業が依頼したい仕事をサイトに掲載し、学生は自分の得意なスキルなどを登録して、自分の興味や予定に合った仕事を請け負い、相互にサイト上で報酬の授受を行えるサービスです。依頼できる内容は買い物の代行やベビーシッター、ロゴのデザイン、イベントのコンパニオンなど多岐にわたります。オンライン上で安心して「顔が見える距離の人」に仕事を依頼できれば、忙しいビジネスパーソンや企業の助けになると考えました。また学生側にとっての大きなメリットは、柔軟かつ自由にスケジュールを組めるという点です。通常のアルバイトだと一定期間、週何日も一つの仕事に拘束されるケースが多く、研究やサークルなど他の時間を割くのが難しくなります。ですがikkaiを使えば、好きな日時・場所を選んで短期間での仕事をこなし、報酬を得ることができます。さらに、将来のキャリア形成に役立つ多様な経験を積める点も、ikkaiを利用する魅力の一つと言えるでしょう。サービスのポイントの1つ目は、報酬の金額を依頼者が決められるため、学生側が通常のアルバイトよりも高い報酬で納得感を持って働ける点です。2つ目は依頼側も請け負う学生側も互いに満足度を評価する「相互レビュー」の仕組みを取り入れている点です。これにより、マッチングの精度と安心感が高まります。そして3つ目は、例えば福岡市在住の学生にのみ依頼できるなど、エリア限定でタスクをお願いできる点です。地元の「顔の見える距離」でのネットワーク形成という意味合いを大事にしています。
このサービスを思いついたきっかけは何だったのでしょうか。
Yasmine:私たちは交換留学生として福岡に留学経験がありました。そこで学生が飲食店など一般的なアルバイトに長時間従事しており、研究や余暇など他の時間をなかなか割けていないという課題を目の当たりにしました。また、企業側も、学生との接点をもとに社員登用を意識した育成や、ピンポイントで何かの業務を依頼したいというニーズを抱いていることに気づき、起業を決意したのです。Ikkaiによって、学生がもっとキャンパスライフを楽しめて、企業や多忙な人がスキルを持った学生に気軽に業務を依頼でき、学生との関係性を築くことができるというWin-Winの状況を作り出せると思っています。
お二人のように、ノンネイティブであっても日本でC to Cビジネスを展開することは可能なのでしょうか。
Thomas:むしろC to Cのプラットフォームならば、B to Cのビジネスと違って、ノンネイティブであることのデメリットは限りなく最小になると考えています。サイト上での仲介手数料として依頼金額の20%をikkaiが受け取るというモデルのため、私たちが企業に営業や交渉、調整など、直接的に仲介する必要がほとんどないからです。もちろん、適切な日本語での表現が出てこなくてうまく伝えられず、サービスについて説明するときにもどかしい思いをしたこともありますが、日本人の優秀なインターン生が翻訳してくれることもあり、言語や文化の壁を感じることは少ないですね。
お二人が現在拠点とされている福岡市スタートアップカフェを利用することで生まれるメリットや効果について教えていただけますか。
Yasmine:当初、日本で起業する際の手続きがわからず、誰に頼ったらいいかも見当がつかないという壁にぶつかりました。ですが、福岡市役所の職員の方が福岡市スタートアップカフェを紹介してくれたことで、登記の方法やスタートアップビザ(※1)を取るための申請方法などを知ることができました。カフェには、弁護士や税理士、司法書士など、起業支援の専門家がコンシェルジュとして常駐しています。例えばスタートアップビザを取得するには、しっかりした事業計画書を準備することが必須となり、コンシェルジュの方が「事業が社会に対してどのような価値を提供できるのか、実現可能性があるかといった点など、審査で重視されるポイントに沿って丁寧なフィードバックをくださいました。これらすべての相談に無料にのってくれるのです。その甲斐あって、効率よくビザを取得でき、アプリ開発などの中核業務に集中しやすくなりました。何より、日本政策金融金庫をはじめ、スタートアップにとって必要な人、組織とのつながりがつくれることが、このカフェの大きなメリットです。そして、英語を話せるスタッフもいるので、外国人起業家にとって非常に頼れる存在だと思います。福岡市市役所の方々、スタートアップカフェのコンシェルジュの方々には感謝してもしきれないですね。ノンネイティブであっても日本で起業を成功させるには、起業や事業推進の専門家や、ネットワークのハブとなる人たちや、スタートアップに関心の高い学生とのつながりを築き、維持することが肝になると考えています。また、福岡という地のメリットも感じています。起業やスタートアップを支援する風土が育っていますし、スタートアップに興味を持つ学生が多いため、福岡という地を選んでよかったと思っています。
最後に、今後のビジョンを教えてください。
Thomas:直近ではサービスをリリースして会員数を増やしていくことですね。そしていずれはメッセンジャー機能も付加していく予定です。中長期的には、福岡を拠点にしながら、シェアリングエコノミーが世界に広がっていく動きと合わせて、福岡以外の日本の都市、そして台湾、韓国、東南アジアなどにもこのサービスを広めていければと思います。
(※1)スタートアップビザ:日本で創業を志す外国人に必要とされる「経営・管理」の在留資格の認定要件が、福岡市(国家戦略特別区域)で創業活動を行う場合に緩和されるという外国人創業活動促進事業の施策。