外国人率 47% - 国籍を超えた企業のあり方
世界各国から優秀なエンジニアが集まるモビルス株式会社。広々としたオフィス内は、一見して様々な国籍、バックグラウンドの社員で活気に溢れています。出身はそれぞれ日本、ベトナムを中心にスリランカ、アメリカ、ロシアなど多様性豊か。全社員の約半数を海外出身者が占めるこの環境では、それぞれの文化と言語の違いを受け入れるおおらかさ、また柔軟性が成長の鍵でした。モビルスの製品の一つであるモビエージェントは、ウェブやLINE・FacebookなどのSNSアプリを通じて、ユーザーからの問い合わせが受け付けられるチャットサポートツールです。FAQシステムや人工知能との連携によって、自動応答するチャットボットも実現できます。ウェブやモバイルの最新技術を用いた製品開発は、現在多くの外国人エンジニアによって支えられています。今回、代表取締役の石井智宏さんにお会いすることが出来、外国人採用、多国籍チームの管理、また今後外国人採用やグローバルチームの立ち上げを検討している企業へのアドバイスなど「グローバルな企業」の今後の一つのあり方についてお聞きしました。
非常に多国籍な環境のオフィスですよね。外国人社員の比率はどのくらいですか?
現在、全社員49名のうち外国籍の方は23名です。全体の47%ですね。多くの方はベトナム出身です。続いてスリランカ、アルメニア、アメリカ、ロシア、ポーランド、ポルトガルなど様々なバックグラウンドの方がいます。日本在住の外国人の方を採用したケースが多く、またベトナムの方の場合は海外で面接をして、その時の日本語のレベルによっては日本語の講習を三ヶ月ほど受けてから来日してもらう、といったケースもありました。いい人がいれば国籍を問わず採用する、という感じですね。
エンジニアの方が多いようですね。
そうですね。全社員49名のうち、エンジニアは40名くらい。今のマーケットは日本人のエンジニアの採用がとても難しいんですね。特にiOS・Androidのモバイル開発の分野は人手不足が深刻です。だからこそ外国人の優秀な方を採用して、多様なメンバーと一緒に働ける、受け入れる態勢を作るというのがすごく重要。それが出来る会社にならないと、これから勝ち残っていけないと思います。人材の確保、そして開発のスピードを上げることが会社の成長の鍵ですから。
多様なメンバーの受け入れ態勢というと?
社内公用語は日本語ですが、社員の多くは英語が話せるので、日本語があまり得意ではないという社員に対しても色々な面でサポートしています。特にプロジェクトマネージャーは、多国籍なメンバーを集めて管理をしていくと言う面で経験者ばかりです。あとはマネジメントも、僕を含めて海外経験があったり、英語をビジネスレベルで話せるメンバーが集まっていますね。役員も今、日本人と外国人で半々です。 なので多分、エンジニアの人、外国籍の人にとっても、雰囲気があまり日本の会社っぽくなかったり、働きやすいというのはあると思います。
海外出身のエンジニアに対してどうアピールしていますか?
ここにいる外国人エンジニアの多くは、例えば人工知能といった新しい技術に触れて、自分自身のスキルを磨くために来ているんです。起業家精神を持った人が多いですね。いつかは自分の国に帰って、自身で会社を立ち上げたり何か新しい物を開発しようと思っていたり。そういった面で、ここは成長の場でもあり、高い技術を持ったエンジニアと同じチームで学ぶことができるんです。
将来的に辞めてしまうかもしれませんけどね (笑)。でも、それでもいいんです。人はどこかのレベルに達した時点で、独立して自分自身でビジネスを始めてみたいと思うものですから。それに今のところは、皆ここで頑張ってくれています。
今在籍している外国人社員の日本語のレベルはどうですか?
多いのが、N2とN3 (日本語能力試験 - JLPT) の間くらい。多分、一般的な日本の会社に入れるレベルって、N2くらいはないと難しいと思います。それがN3近く―― まあさすがにN3だときついところもあるんですけど、そのN2とN3の間でも何とかなる。場合によっては英語でやるとか、あとは先輩のベトナム人に教えてもらったりとか。CTOもベトナム人なのでそういうことも可能です。
もう完全に英語だけという人も二人いますね。あとは英語も日本語も難しくて、ベトナム語がメインっていう人も中にはいます。その場合社内の特定のチームでしか働けないという制限は入りますが、ただその人の場合は言語のハンデを埋められるくらい、テクニカルスキルが高い。
外国人採用の際、カルチャーマッチはどうやって判断するんですか?
やはりエンジニアなので、基本的にはテクニカルスキルと、どういうエリアで技術を伸ばしていきたいのか、っていうところのフィット感で見ていきます。あとはもちろん仕事の丁寧さや学ぶ姿勢も大事です。
例えばコーディングをした後、自分がやった部分をきっちりテストする習慣を持っているのかとか、クリーンなコードを書けるか、細かいけどそれぞれに説明タグをきっちりつけて、他の人が見てもちゃんと分かるようにしているかなどチェックしますし、出来ていなければ入社後に教えます。
あまりその人の性格やキャラクターがマッチするかということについては見ていないですね。まあ結局色んな人がいますから。日本人でも全然カルチャーが違う人がいますからね。会議中にご飯を買いに行くとか (笑)。そういう人でもフィットする、周りが受け入れられる、ある種のおおらかさがありますね。もちろんそのエンジニアも仕事はすごくしっかりしてますよ。
日本人だけのチームにはない、多国籍チームのいいところ、大変なところ、どういったものがありますか?
まずスタートアップの場合はスピード感が命なんですけど、基本的にスピードがでない最大の要因はエンジニアの採用が出来ないから。私達は日本人エンジニアの枯渇してるマーケットでも、外国籍の優秀な人を採用して、一緒に働いていけるキャパを持っている。これはもう他社とは圧倒的に違う差別化、アドバンテージになるんですよね。
あとはマネジメントのレベルでは、例えばアメリカ人なら、シリコンバレーの事情や最新技術にもアンテナを張り巡らせているので、最新の情報が入ってくるんです。その上でじゃあ今後会社の舵取りどうしようということも話せる。あとは皆英語に問題がないというのも大きいですね。新しく出てくる技術書は大体英語なので、そこから新しいフレームワークの取り入れなども容易に出来ます。
大変な部分は、コミュニケーションですね。場合によってはなかなか伝わらなかったりするので、仕事を任せる時も結構細かく丁寧に説明しないと、全然違う物が出来あがってきたりということもあります。もちろん日本人でも同じことが起きる可能性はありますが、外国人の方が確率的には高いと思います。あとは日本のビジネス上の常識にあまり馴染みがなかったり、仕事の仕方の違いがあったり、色んなことは日々起きますね。
あとは、旧正月など、一部の外国人社員が一斉に帰りたがる時期なんかもあります。正月だったら日本のビジネスは止まってるからいいんですが、旧正月となると、普通に動いている時期なので、プロジェクトをバランス良く調整しないと支障が出てくるといった点があります。
これから外国人採用を考えている日本の企業に対してアドバイスは?
面接の時に、日本語の受け応えだけに捉われない方がいいと思います。言葉でうまく答えられない事も多くあると思うんですよ。でも特に技術者の場合、一旦会社に入っちゃうとなんとかなるんですよね。一般的な日常会話ではなく、専門的な会話に入っていくので、要所の単語さえ分かればなんとか仕事はできる。
あとはやっぱりエンジニアだったら技術的な面で判断した方がいいんじゃないかな。組織にフィットするかどうかは、そういう人たちを束ねるリーダー、マネージャーに、多様なメンバーをまとめる経験値を持った人を入れるのが大事なポイント。どんな人がいても出来るだけ受け入れられる、忍耐と許容量を持った人じゃないといけない。
ビザだったり採用上の手続きの面で違うところもありますが、これはすごく簡単ですよ。特にエンジニアにとって、日本で就労ビザを取得するのは、他国に比べても本当にあっさりしたものです。だからそこは問題ではありません。一度やってみたらいいんですよ。やってみて、学べばいい。もしいきなり(正社員として)フルタイムで雇うことを躊躇っているのであれば、派遣や契約で始めるというのも選択肢です。
あとは同じ国の方を複数名採用した方が楽かもしれないですね。いい意味でのチームワークが生まれて、コミュニケーションの面でフォローしてくれたりとか、教育してくれたりとか、絶対あると思うんです。助け合いやすいとかね。
最後に私達は、国籍を超えたエンジニア集団。例えば人工知能とか、モバイルの領域でスキルを伸ばしていきたいという人がいれば、これから一緒にどんどん面白いものを作っていきたいですね。
モビルス株式会社について
アメリカ人とベトナム人の二人によって創業されたITベンチャー企業。モバイルと人工知能による新たなコミュニケーションを提案している。コンタクトセンター/顧客サポート向けの自動応答対応チャットツールの開発・販売、および企業向けチャットツールのOEM提供を行うなど、特にチャットテクノロジーに強みがある。