Slush Asia発起人に「次世代の起業家育成」への想いを聞く ~海外の起業家を惹きつけるコミュニティーをめざす~(後編)
フィンランド出身で、大ヒットゲーム『Angry Birds』などを手掛けるRovio Entertainment日本法人元代表のアンティ・ソンニネン氏。数多くの企業やボランティアの協力を得て、一般社団法人「SLUSH ASIA」を立ち上げました。英語で開催される日本最大規模のスタートアップ・イベントSlush Asiaを運営され、若手起業家のための新たなコミュニティーづくりに挑んでいます。
Slush Asiaを入り口に、学生たちにも「起業=カッコいい」という印象を伝え、新しい挑戦をする人を増やしたいと語る彼に、Slush Asiaを始めるに至った課題意識や、今後の構想についてお話を伺いました。
(前編はこちら)
アンティさんは若手起業家の育成を大事にされているのですね。
アンティ・ソンニネン氏(以下、アンティ):まだまだ日本の学生には大手企業志向がありますが、起業家というキャリアが、学生にとってもっと一般的な選択肢になってほしいという願いがあります。「起業したい」と言っても、家族から「まずは企業に就職してからでいいじゃない」と言われて断念するケースも多々あるのが現状です。実際のところ、日本人で初めて起業する際の平均年齢は他国に比べて高く、「起業は経験を積んだ人がやるもの」というイメージが今でもあるのです。
もちろん起業は何歳でもできます。ただし、若いうちに起業することのメリットが伝わっていないのは問題です。企業でキャリアを積み、家族ができると、それが制約になって、例えば「起業のために別の国に引っ越す」などと、柔軟に動くことが難しくなってしまう。一方、キャリアが浅い若手なら、起業がうまくいかなくてもリカバリーがしやすいですよね。
僕が日本での起業家イベントを見ていて課題に感じているのは、刺激的なパネルディスカッションや講演がなされているのに、その後、それを聞いて触発された学生たちが行動を起こす機会が設けられていないこと。学生側も、起業家の先輩たちを巻き込んでもいいし、それが無理なら自分たちだけで動き出せばいい、という思考が必要ですね。
日本でも、社会に大きなインパクトを与えるスタートアップを輩出するには、何が必要だとお考えですか。
アンティ:二つ必要なことがあると思っています。一つは、そもそも起業したいという若い人を増やすこと。起業に失敗しても、それが今後のキャリアに活きるし、日本全体にとっても多様性が強みになるという考えを浸透させたいですね。日本では今でこそギャップイヤーを推奨する動きもできていますが、留学や起業で卒業が遅れることに対し、マイナスのイメージを持っている人もいますから。ですが本当は、色々な経験をしてきた学生のほうが企業に就職しても、その経験を活かして新しい風を吹かせてくれることが多いのです。
もう一つ大事なのは、起業したいと考える人をストップする人を減らすこと。両親やパートナーから、心配のあまり起業を踏みとどまるようにブロックされるのを減らすには、みんなと違う道を歩んだことで成功しているロールモデルを増やすことが効果的だと考えています。泰蔵さんも「入社したら3年は修行しろ」という日本の風潮には賛成しておらず、「やりたいことがあるなら今すぐやればいい」と語っています。起業家として実績を残し、社会的にインパクトを与えられる人が、こうしたメッセージを発信することも、起業しようか迷っている人に、一歩を踏み出す勇気を与えることにつながると考えています。
外国人が日本での起業で成功する事例を増やすために何が重要なのでしょうか。
アンティ:世界の優秀な人材が、日本は起業に魅力的な場所だと思うような環境を整えていくことが重要だと考えています。シリコンバレーが起業の聖地として成功している大きな理由の一つは、世界中トップレベルの起業家やエンジニアたちが集まっていることです。
世界で勝負したいと考える優秀な人たちを日本に呼び込むには、まずは「起業するには日本語が必須」という状況を変える必要があります。英語で日常会話ができる人は、世界に15億人程度いると言われています。そのため、英語ができれば日本でも起業できるという社会になれば、言語の問題は解消されるでしょう。またビザの取得しやすさを高めることも必要です。
何より大事なのは、日本に面白いビジネスチャンスがあると対外的にアピールをしていくこと。国内外の起業家が集まるコミュニティーが育っていけば、それ自体がビジネスチャンスの宝庫になるし、優れた人材の磁石にもなってくれるはずです。
優れた人材を世界から日本に呼び込むことが重要なのですね。アンティさんの今後の構想をお聞かせください。
アンティ:2回のSlush Asia開催を経て、外国人も引き寄せられる起業家コミュニティーづくりのインフラができつつあるという手ごたえを得ています。今後も、学生をはじめとする若者がイベントの運営体制の中核を担うことで、Slush Asiaを「次世代の起業家育成」の象徴にしたいと考えています。こうした基礎をかためたうえで、世界を変える起業家のコミュニティーづくりに全力で取り組んでいきたいですね。