オンラインストアの雄、STORES.jpのブラケットがMBOへ。新たなサクセスストーリーをめざす(前編)

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最短2分で驚くほど簡単にオンラインストアがつくれる「STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」。運営会社である株式会社ブラケットは2008年10月に設立され、2013年には「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイの完全子会社となりました。その後も順調に成長を続けてきたブラケットが、2016年9月30日をもって新たな局面に入ります。ブラケットの株式を買い戻し、グループから分離するMBO(マネジメント・バイアウト)を行うとともに、近日中に代表の役割を、ブラケットの取締役、塚原 文奈さんに交替すると発表しました。その経緯と今後の構想について、代表取締役兼CEOの光本 勇介さんにお聞きしました。

2012年にSTORES.jpをリリースされてから丸4年が経ちます。これまでを振り返って、成功を収めてきた秘訣は何だとお考えですか。

光本 勇介さん(以下、敬称略):STORES.jpが世の中に存在していた「簡単にオンラインストアをつくりたい」というニーズをうまく満たすサービス内容であり、良いタイミングでリリースできたことが、70万アカウントを超える(2016年9月時点)という現在の姿につながっていると考えています。だからこそ、莫大なマーケティングコストをかけなくても、口コミで拡散し、多くのお客様から支持されるようになったのでしょう。

ただし、我々がめざすのは、現時点ではオンラインストアのニーズを感じていないお客様にも、STORES.jpを通じて、そのメリットや価値を感じてもらうこと。顕在化しているニーズに応えて胡坐をかいていては、いつか限界に達してしまう。500万、1000万アカウント突破という、さらなる飛躍をねらうには、人々の意識を変え、「オンラインストアを持つのが普通」という新たなカルチャーをつくることが大事になると考えています。

我々のサービスは、ブログに似ているんです。少し前なら、ブログはネットに詳しくて、文章を書きたいという一部の人のツールでした。ですが、ブログを運営する各社が「日記をオンラインで書くとこんな楽しい世界があるよ」と啓蒙していったことで、ブログを書くハードルが一気に下がり、今や誰もが楽しめる一つのカルチャーの仲間入りを果たしました。オンラインストアもブログと同じくらい、多くの人が気軽に楽しめるものにしていきたいと考えています。

さらにインパクトの大きいサービスをめざす気持ちは、どこから湧いてくるのでしょうか?

光本:ネットのサービスをつくってきた身として、「誰もが知っていて、豊かなライフスタイルに欠かせないサービスをゼロからつくりたい」という気持ちが強いんです。例えばTwitterやLINE、アメーバブログのようなサービスですね。「自分たちがいなければ、このカルチャーは存在しなかったんだな」と思えるくらいにまで成長すれば、すごい影響力を発揮できているわけじゃないですか。

私は社員によく、「合コンで『STORES.jpをつくっている』と話したら、一気にモテるようなサービスをつくろう」と言っています。相手が「えっ、そのサービスなら毎日使ってるよ! すごい!」と食いついてくれるような(笑)

「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの完全子会社化によって、ブラケットではどんな効果がありましたか。

光本:スタートトゥデイのグループにジョインしてからの3年間で、売上やユーザー数、流通額、利益といったあらゆる面で、驚異的に成長を遂げることができたという点に尽きます。ジョインする前は完全に自己資本だったので、赤字になるような挑戦は踏み出しづらいというデメリットがありました。ですが、スタートトゥデイのような圧倒的に大きい規模と認知のあるグループに入れたからこそ、これまで難しかった挑戦や投資を行えたので、2013年のタイミングでジョインできたのは正しい選択だったと考えています。代表の前澤さんをはじめ、スタートトゥデイがブラケットのビジョンに共感を示し、支援を続けてくれたため、STORES.jpの軸をズラすことなく拡大できたことも非常にありがたかったですね。

そんな中、2016年10月には大きな動きが2つありました。詳細を教えていただけますか。

光本:大きな動きは2つあり、ブラケットはこれから新しい局面に入ります。まず、1つ目はブラケットの株式を私自分が買い戻すMBO(マネジメント・バイアウト)を行い、グループの外に出るというものです。これは日本のベンチャーではかなり珍しいでしょう。

2つ目は、ブラケットの取締役である塚原 文奈に代表の座を譲るということです。私はかわりに取締役として、今後は新規事業の開発に専念していきます。

非常に思い切った決断だと感じます。この狙いは何ですか?

光本:もちろん、グループの一員としてでも、事業は伸びていく予想はできています。ですが、完全子会社化のときに両社のシナジーをめざしていた協業よりも、STORES.jp単体で伸ばしていったほうが結果的には良いのではないかと思ったわけです。何より、「人々の意識を変える」「一大カルチャーをつくる」という大きなジャンプをするには、ブラケット単体のほうが、より身軽に新たな挑戦ができるのではないかと考えたのです。また、スタートトゥデイも「ブラケットのさらなる成長のためなら」と私たちの意思を尊重してくれたことも後押しとなり、今回の決断に至りました。「もうすぐ100万アカウント突破」というタイミングこそ、自分たちの体制を変えるのにふさわしいと思ったのです。

決断において、迷った点はありましたか?

光本:今まで自分で使ったことのない大金を使った企業買収を個人でやることになるので、一起業家として金銭的に大きなリスクをとることに対しては、ある程度迷いましたね。

いつもはあまり意思決定で迷わないタイプですが、今回ばかりは、自分の周囲に与える影響も考えると、自分で負えるリスクなのだろうかと自問しました。ですが最終的には、誰よりも事業の可能性や伸びしろを理解しているつもりですし、この決断で大きな価値が生み出せると確信して、新たな一歩を踏み出しました。

後編につづく