オンラインストアの雄、STORES.jpのブラケットがMBOへ。新たなサクセスストーリーをめざす(後編)

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最短2分で驚くほど簡単にオンラインストアがつくれる「STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)」。運営会社である株式会社ブラケットは2008年10月に設立され、2013年には「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイの完全子会社となりました。その後も順調に成長を続けてきたブラケットが、2016年9月30日をもって新たな局面に入ります。ブラケットの株式を買い戻し、グループから分離するMBO(マネジメント・バイアウト)を行うとともに、近日中に代表の役割を、ブラケットの取締役、塚原 文奈さんに交替すると発表しました。その経緯と今後の構想について、代表取締役兼CEOの光本 勇介さんにお聞きしました。

(前編はこちら

MBOのタイミングで代表を交替する理由は何ですか?

光本 勇介さん(以下、敬称略):STORES.jp はサービス開始から4年ほど経っており、0から1を生み出すフェーズから、1を100にするフェーズに入っています。今後さらに事業を成長させるには、塚原のほうが代表に適任だと思いました。彼女はブラケット設立前からの仲間で、全幅の信頼を置いていますし、ブラケットがここまで成長できたのは彼女が大いに寄与してくれたおかげ。

この8年間で、自分が関わらなくとも、信頼できる仲間に主力サービスを任せられる状況にまで事業を成長させられたことは、非常に嬉しいことでもあります。

光本さんは今後、0から1を生み出すところに注力されるのでしょうか?

光本:そうですね。今私は35歳ですが、次の良い区切りとなる40歳の時点で、圧倒的な影響力のあるサービスをつくり上げ、世の中をより豊かに変えていたいと思っているんです。

こういう価値観を持つようになったのは、前澤さんと近くで仕事をしたことの影響が大きいですね。ZOZOTOWNは、日本を代表するオンラインショッピングのプラットフォームの一つとして確固たる地位を築いています。桁違いに大きい影響力のある事業が当たり前とする基準にふれたことで、「自分たちの手で、人に胸を張って話せるようなサービスをつくってみたい!」という思いが強まる一方でした。となると、40歳から逆算して、それなりの仕込み期間が必要なので、今のうちからチャレンジをしたいと。私にとっての一番の資産は「時間」ですから。

私は0から1をつくるところが得意だと思っているので、ブラケットのサービスの柱を伸ばしてくれるパートナーに代表のバトンを渡して、引き続き世の中をもっと変えられるようなチャレンジを続けつつも、新しいサービスを0からつくっていく。これが一番エキサイティングなんじゃないかと思っています。

具体的にどんな構想を描いているのでしょう?

光本:現在は、「マス向けのサービス」という観点で、具体的な事業領域を模索している段階です。事業選択の軸としては、ネット関連のサービスやスタートアップが増え続ける現在においても、まだまだ消費者が生活で不便を感じている領域です。

これまでSTORES.jpをはじめ、その時々で「これは面白い!」という肌感覚を大事にしてサービスをつくってきましたが、ブラケットを8年間やる中で視野も広がりましたし、事業選択とタイミングも非常に大事だと学びました。そこで、新たな事業開発で、より意識したいと考えているのは、自分たちの感覚だけでなく、「本当に市場が広がる可能性あるのか」「お金を払ってでも使いたいと思うユーザーが数多くいるのか」「サービスがスケールするのに十分な単価を維持できるか」といった客観的な視点です。規模やインパクトの大きいサービスに育てていくには、そもそもポテンシャルの高い市場を選ばないといけない。めざす規模から逆算しながらも、目まぐるしく変化する時代のトレンドに目を配り、そのサービスが最も世の中に求められているタイミングで投入することが、サービスの普及という点でも重要になってきます。

光本さんは時代を読む感度が非常に鋭いのだと思います。「これは伸びそう」というビジネスの種を見つけるために、心がけていることはありますか?

光本:世の中の動きに敏感にいることでしょうか。あとは、同じ情報に接していても、ユーザー目線なのか、それとも作り手目線なのかでも、見え方が違ってくると思います。たいていの人は「Airbnbが流行っていて面白そうだから使ってみよう」と、サービスに乗っかるようなユーザー視点に立っています。一方、作り手としてのマインドを持っている人は、「このサービスで不足している部分を満たすにはどんなサービスが新たに必要だろうか」などと、自分が何かを生み出す前提で考えを巡らせます。

私は新しいものをつくるのが好きなので、普段社員と雑談しているときも、目の前のものから新しいビジネスのアイデアが自然と湧いてくるんです。例えば仮に、社会人のランチをすべて無料で提供してくれるサービスが登場したら、社会人のランチの文化がガラッと変わると思いませんか? みんながハッピーになる世界を実現するならどうするかを考え、実現するピースを見つけていくという考え方が、アイデアの発想に役立っているのかもしれません。

常日頃から「作り手」の視点で新たなビジネスのアイデアを考えておられるのですね。最後に、起業家を志す読者に一言お願いします。

光本:私らのMBOは非常に珍しいケースです。ここ数年でベンチャーも成熟してきて、M&A件数も増えてきています。しかし、M&Aをエグジット(出口)と呼ぶ人がほとんどで、上場と売却しか選択肢がないのが現状です。それに対し、円満なMBOは、これまでにない新たなアクションだと思っています。

ブラケットの今回の決断が、新しいエグジットの可能性を生み出し、「こういうアクションがとれるんだな」と、起業家の方々に伝えることができれば嬉しいですね。そして、こうした珍しいアクションをとった会社が結果を残すことができれば、新たなサクセスケースとして、起業家のチャレンジの幅を広げられる。こうした状況になることを強く願っています。

ブラケットの新たな展開に目が離せません。貴重なお話をありがとうございました!