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新しい経済システムの実現をめざす改革者【前編】

仲津正朗氏 株式会社Orb共同創業者兼CEO。

大学生時代から15年以上、貨幣システムの研究に取り組む。NYの邦人投資顧問時代に貨幣システムの問題点を認識し、起業家として問題解決することを決意する。その後、セブンネットショッピングにてプロダクトマネージャーを経験し、シリコンバレーにて、コンテントキュレーションベンチャーのMusavyを手がけ、GrouponにてBusiness Development、CriteoのGlobal RTB Team APAC Directorを経て、Orbを創業。

仲津さんが起業を決意した動機ときっかけは何でしたか。

仲津正朗氏(以下、仲津):金融システムに興味をもったのは大学生のころにさかのぼります。経済学を専攻し、バブルや恐慌が起こるメカニズムを知りたいと研究をしていましたが、大学4年間では到底答えは出ませんでした。そこで、金融業界で働きながら先端の情報にふれて、独自に研究を続けようと決め、投資の世界に進みました。入社3年目のときにNY支社の邦人投資顧問になるチャンスに恵まれ、ウォール街の投資家たちと交流する中で、恐慌が起こる本質的な原因が見えてきたのです。  

その原因とはどんなものだったのでしょう?

仲津:主に2つ原因があります。1つ目はお金を媒介する現在の金融経済システムが、実体経済とかい離しているという点です。実体経済とは、食糧や燃料などのさまざまな資源を利用して運営している経済システムのこと。自然界のルールと同じく、すべてのモノの価値がいずれはゼロになるというルールに則っています。一方、今の金融経済システムは、貨幣が世界中に流通し、金利や公定歩合のように、流通するお金が膨れ上がっていく仕組みになっています。「儲け続けなければならない」という強烈な競争原理が働いていているため、実体経済とかけ離れて株価が異常につり上がり、その結果、バブル崩壊を引き起こしてしまう。2つ目は、債券によって資金が調達できてしまう仕組みなっている点です。金融取引には、実際の支払いを後ろ倒しにできるクレジット(債券)決済と、即座に支払いが行われるデビット決済の2種類がありますが、前者は実質、借金で成り立っているわけです。貸し手はお金が返ってくると見越して商売をしますが、お金が踏み倒されるリスクを負うため、本来の実体経済システムにとっては望ましくない状況になるのです。これらを是正する新しい経済システムをつくることで、こうした課題を解決できると確信しました。 

もともと起業という選択肢は身近にあったのですか。

仲津:そうですね。祖父が起業家で、20歳で笛のメーカーを立ち上げた人でした。当時は日本のシェアの半分を占め、台湾などにも笛を輸出するなどしていたと父から聞いていたので、社会に貢献していくために、いずれ起業家か政治家か学者になりたいと小さい頃から考えていました。政治家は根回しが大変そうだし、学者のように研究し続けるのは大変ということで、起業家という選択肢に絞られていきました。 

NYから帰国後のキャリアについてお聞かせください。

仲津:起業に必要な力を磨くために、セブンネットショッピングでプロダクトマネージャーとして社長直轄で事業開発やシステム開発に2年間携わりました。経営者から直接、創業秘話を聞けるような恵まれたポジションだったため、起業がより現実的になりました。その後、独立してWebコンサルティングを受注しながら、起業準備に入り、2010年にシリコンバレーで、コンテンツキュレーションの会社を立ち上げました。シリコンバレーを選んだのは、GoogleやFacebookなど、グローバルに活躍するベンチャーが次々と生まれるメッカだったから。結局は2年で会社を畳むことになりましたが、大事な学びがありました。 

どんな学びだったのでしょう?

仲津:まずシリコンバレーのVCは非常に合理的だということです。同じテーマで起業家が複数いたら、生き残る確率が高いベンチャーに投資しようとするのは必然。となるとアメリカの大学を卒業して、アメリカ在住経験が長く、現地の人脈が多い起業家に投資するため、アメリカの留学・在住経験もない日本人だけで勝負しようとしても非常に厳しいということを身にしみて感じました。そこで、立ち上げ2社目となるOrbの起業においては、「日本発でもグローバルビジネスで成功するにはどうしたらいいか」を考え抜きました。重要なのは情報戦略をしっかり立てること。情報戦略に長けた企業として、アドテク業界で有名なCriteoの事例も参考にしました。例えば、事業アイデアが盗まれないように、参加するピッチコンテストも厳選し、情報を管理するというのも大事な戦略の一つです。また、日本である程度事業が軌道に乗ったら、北米市場の開拓に向けて、北米のキーパーソンとなる人物を採用することも重要です。このリクルーティングのノウハウがなく苦戦する企業が日本には多い気がします。 

リクルーティングで心がけたことは何でしたか。

仲津:世界を見据えた優秀な人材に参画してもらうには、「この事業でどんな社会を実現したいのか」というビジョンや、その背景にある思想を、相手が魅力的だと感じるように伝えることが重要です。現在Orbには3名の外国人が参画しています。彼らの採用においても、事業のビジョンにワクワク感をもってもらえるよう、相手がどんなポイントにエキサイトするかを見極め、相手の関心や未来像と重なるスイートスポットに響くように心がけていました。 

後編につづく