新しい経済システムの実現をめざす改革者【後編】
仲津正朗氏 株式会社Orb共同創業者兼CEO。
大学生時代から15年以上、貨幣システムの研究に取り組む。NYの邦人投資顧問時代に貨幣システムの問題点を認識し、起業家として問題解決することを決意する。その後、セブンネットショッピングにてプロダクトマネージャーを経験し、シリコンバレーにて、コンテントキュレーションベンチャーのMusavyを手がけ、GrouponにてBusiness Development、CriteoのGlobal RTB Team APAC Directorを経て、Orb を創業。
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シリコンバレーと日本の両方の起業経験を積まれて、大きく異なると感じた点はありましたか。
仲津:まず、シリコンバレーのほうが、ビットコインにしてもシェアリングエコノミーにしても、トレンドが2年ほど速いですね。日本のVCはシリコンバレーで立ち上がった前例がある事業でないと資金調達にゴーサインを出さないことがほとんどです。日本で起業するメリットは、競合が少なく、比較的出資を得やすい環境にあるという点です。一方、シリコンバレーだと激しい競争にさらされますから、資金調達が決まるかどうかの局面では、「ご飯も喉を通らない」くらいの極度のプレッシャーに追い込まれることも珍しくありません。ただし、日本で起業する場合、特に大企業が集中する東京だと、大企業のエコシステムに取り込まれやすいというデメリットがあります。シリコンバレーなら大企業の利害関係を排除できるので、FacebookやTesla Motorsなど新興スタートアップが育っていきやすいのです。また、グローバルに通用する会社になるには、日本のベンチャーは、シリコンバレーのベンチャーと比べて、外国の価値観を理解し、取り込むことが難しい状況にあると感じています。日本人が大多数を占める企業だと、日本人的なカルチャーがなかなか拭えません。シリコンバレーの企業なら、立ち上げ当初から多国籍な社員が集まっているため、グローバルに打って出ても、多様なカルチャーに馴染んでいきやすいので、非常に有利になります。
多様なカルチャーを持つ人材を確保することが大事なのですね。日本でのOrbの起業を軌道に乗せるために特に意識された点は何でしたか。
仲津:私がめざしているのは、金融システムを改革し、小さな政府がどんどん生まれる世界をつくることです。とはいえ新しい価値観を提唱する際には、最初は必ず反発が起こります。そのため、世の中が自分の構想を受け入れる素地ができたタイミングに起業することが重要だと考えました。ちょうとビットコインやブロックチェーンにスポットライトが当たったのは、中央集権ではない金融システムの導入、浸透を進めるための格好の材料でした。2014年に起業したのは、ちょうど2013年にシリコンバレーで、ピーター・ティールなどの影響力のあるVCたちがビットコインの事業に、シリーズAという市場性があると認められたプロダクトに出資するラウンドで出資したのが契機でした。これはビットコインに有望なマーケットがあると認められた証です。このニュースを聞いて即座にメンバーを集めて投資家回りを始めました。「シリコンバレーに来ている波は確実に日本にもやってくる。このタイミングを逃したら海外のプレイヤーに追い越されてしまう」と説明していくと、サイバーエージェントが2週間で出資を決めてくれるなど、事業の意義を理解してくれる人が増えていきました。
今後、日本もシリコンバレーのように、ベンチャーが育ちやすいエコシステムを築くために、どんな課題を乗り越えていくべきだとお考えですか。
仲津:日本では、VCの的確なベンチャー支援能力を引き上げることが重要だと考えています。シリコンバレーのVCは事業開発能力もリクルーティング能力も非常に優れています。著名なファンドから出資が決まったスタートアップに対しては、他の企業から優秀な人材を引き抜いたり、アライアンスを締結してくれたりするなど、出資したベンチャーが成功するためにトータルでサポートしてくれるのです。ここまでの気概と実行力があるのは、VC自身が身銭を切って出資金の一部を支払い、リスクをとっているからでしょう。日本にも「VCがここまで踏み込むのが当たり前」という文化が醸成されれば、もっと多くのベンチャーが育ちやすくなると思います。
今後のビジョンを教えてください。
仲津:まず国内では、地域通貨の事業を主力事業に成長させたいですね。現在、地方創生が叫ばれていますが、単一の通貨が流通し、中央銀行がコントロールしている現状では、地方が自立した真の創生は難しいでしょう。未来の金融システムを考えるうえで大事なのは、複数の通貨が流通する多様な経済圏をつくっていくことです。実は江戸時代には、そんな多様な経済圏が実現されていました。現在と異なり、各藩(自治体)の経営における江戸幕府(中央政府)への依存度がほとんどなく、藩札という独自の地域貨幣を用いることで、小さい経済圏を維持していたのです。地域経済の弱体化を防ぐには、各自治体が通貨を持ち、中央政府による経済の囲い込みを防ぐことが大事だということを、各自治体や地銀のキーパーソンに伝えていくことが使命の一つだと考えています。
仲津さんの揺るぎない信念が伝わってきました! 貴重なお話をありがとうございました。