買い手と売り手の視点から:内側から探るM&Aを成功させる3つのフェーズ

ソフトバンクロボティクスの海外事業展開のリーダーとして4年半、買い手の立場を経験した後、リコーによるMakeLeapsの買収プロセスを指揮した郡司 史徳 (GUNJI, Fuminori)氏は、売却と買収双方の立場で、日本でのM&A交渉を経験してきました。

現在、郡司氏はTokyoMateのCEOを務めています。TokyoMateは外国人エグゼクティブのビジネスをサポートするOffice-as-a-Serviceスタートアップです。TokyoMateについては、こちらをご覧ください。

彼とのインタビューをまとめたこの記事では、M&Aのプロセスにおいてスタートアップや企業が知っておくべきこと、考慮すべきことを3つのフェーズに分けて紹介しています。この記事の原文(英語)はTokyoMateのブログに掲載されています。


インタビューを見る(英語)

 

 

M&Aはベンチャーキャピタル(VC)から資金を得る代わりとなる多くの選択肢の中の一つです。M&Aでは、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)から資金を得ることになります。

フェーズ1:買い手に対して事業を可視化することと、買収前に理解しておくべきコンセプト

M&Aは、スタートアップを買収したいと考えている企業がいることが前提です。事業を買収するよう企業を説得することはあまりありません。M&Aの流れはそういうふうには進まないのです。外に対して「事業を売ろうと思います」ということはできません。事業は「買われる」のであって「売られる」のではないからです。

通常、企業は特定のタイプの事業を探していて、偶然、あなたの事業を見つけるのです。つまり、必要なのは買い手となる可能性のある企業が見つけられるように事業を可視化することです。

郡司氏のソフトバンクでの買収の経験からもいえることですが、企業側からしても、わざわざ「よし、事業を買おう」ということはありません。そうではなく、企業は「スタートアップに投資をしよう」と考えるのです。

スタートアップに投資をしたいと考えている大企業には、たいていの場合そのためのチームが存在します。おそらく、経理部からのメンバーとスタートアップの環境に慣れ親しんだメンバーが含まれるでしょう。このチームは、自社の事業ポートフォリオを強化することを目標とします。社内には新事業の構築に適した人材がいないとわかっていて、スタートアップを買収、または投資する方が簡単なのかもしれません。

スタートアップに投資をすることで企業は該当のスタートアップについて(また、その業界の最新のトレンドについて)の情報を得られます。投資企業として、経理面や理事会の内容、その事業の実際の業績について知ることができるからです。つまりは、事業が成功するかどうかについてもわかるのです。それを基にして、投資を続ける価値があるか、買収したり、それによって新たな市場に拡張していくかを評価します。

事業の成功に自信がある、製品が素晴らしいと感じる、顧客が満足していることがわかる、などの時、投資企業はようやく「買収を考えよう」と言うのです。

 
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フェーズ2:買収ステージとM&Aプロセスにおけるプロジェクトマネジメント

スタートアップで働いている時、VCとは実際に会い、知り合うことができます。スタートアップのイベントに参加したり、個人的なつながりで紹介を受けたりするからです。ですが、CVCの人々はあまりそのようなイベントには顔を見せません。

そのため、もし事業の買い手を見つけたいと考えているなら(たとえ、VCを通した資金集めだけだとしても)、ファイナンシャルアドバイザリーサービス(FAS)を提供している企業を探しましょう。たとえば、デロイトやKPMGなどには小企業やスタートアップが投資、買収の機会を探している大企業を見つけるのをサポートする部署が存在します。

仲介役を見つけることは役に立ちます。事業の名を伏せたまま、投資の可能性のあるCVCを精査してくれるからです。協力して匿名のピッチ資料を作成し、代わりに送ってもらうことができます。投資企業候補からある程度の距離を保ち、将来的な計画をまだ公開したくない場合には最適です。

ファイナンシャルアドバイザリー企業は、M&Aを含む資金集めのプロセスのプロジェクトマネージャーを務め、契約後に一定の割合を取り分とします。このような企業のサポートは極めて重要な役割を果たしてくれます。スタートアップは通常業務をこなすだけでも、十分に忙しいことがほとんどだからです。

買収のプロセスにおいては交渉すべき専門的な細かい点が多くあり、買い手側からは当然、デューデリジェンスで膨大な数の質問を尋ねられます。そうなった時、経理関係や法律関係の業界用語に通じていないのであれば、求められているデータのタイプを誰かに翻訳してもらう必要があります。また、作成する書類や技術的な工程も非常に多いため、進行ペースを管理したり、メールの返信や未回答のディリジェンスに関する質問などについて知らせてくれたりする、契約実現を専門にするプロジェクトマネージャーを持つことは有利です。

5~7社ほどのFAS企業とインタビューを行い、相性のいいところを選ぶことをおすすめします。買収の契約は完了まで長くて半年ほどがかかります。コミュニケーションがスムーズにとれて事業の内容や考えを理解してくれる企業を見つけましょう。

重要ポイント:良いM&Aの買い手を決めるため、適合性や意図を見極める

M&Aにおいては、買い手候補を見つけた場合、事業ポートフォリオに目を通しなぜ先方があなたの事業の買収に興味があるのか研究しましょう。この企業の既存事業とどのような相乗効果の可能性があるでしょうか。この企業はすでにあなたの事業領域に展開するための動きを起こしていますか。

ポートフォリオの他の事業との組み合わせは良いでしょうか。もっと具体的には、既存事業の顧客層はどのようなタイプでしょうか。あなたの事業に求められる顧客のタイプと合っているでしょうか。相互に顧客を紹介できる可能性はあるでしょうか。あなたの事業に統合できるような隣接するソリューションやサービスはあるでしょうか。

この企業は、あなたのスタートアップの向かう方向性にすでに進み始めていますか。大企業の社内では多くの権力争いがあります。役員の一人が自分の権力を見せつけたり、自分を宣伝するために動いているだけで、企業全体の戦略はあなたの事業に対するその人の興味をバックアップしていないという可能性もあります。

なので、自分に問いかけてみてください。このスタートアップに対する興味は、数人の社員からのものなのでしょうか、それとも、もっと大きな動きがあって、この大企業全体がデジタルに―または、あなたの事業の関連分野に―移行しようとしているのでしょうか。その大きな動きがなければ、買収契約後に必要な予算を得ることが難しくなるからです。理由を以下に述べましょう。

買収後には、あなたの事業は基本的に買い手企業の一部門となります。大企業には予算があるため、次のことを考慮する必要があります。

どのように予算を獲得するか?

自分の事業ラインや事業部がその予算規模に値することをどのように正当化できるだろうか?

企業全体の予算の一部を賭けて、他の様々な事業部と競争することになるのです。

買収後に成長を続けるためには、社内であなたのスタートアップを企業全体の政党戦略の一部だと同意する社員が十分な数(例:理事会などに)存在することが望ましいでしょう。つまり、ある程度まとまった予算をあなたの事業、または、あなたの事業の成長をサポートする社内プロジェクトに費やす意味があると考えてくれる人達です。

ですが、もし買収契約が社内の一握りの人による決定によるものであったら、その人たちが社内での立場を失ったり解雇されたりした場合にはあなたの事業も居場所を失い、手放される可能性もあります。または、必要な予算が得られず枯渇するかもしれません。繰り返しますが、重要なのは買い手企業の事業ポートフォリオを精査すること、過去の投資先との関係資料を確認すること、あなたの事業分野への移行を希望し、自社の投資家に対し公式にそれを確約しているという情報を探すことです。公式に発表されている戦略があなたの事業の方向性に沿っているとわかったら、このM&A案件が企業全体の戦略に意味を持っており、特定の個人の好みによるプロジェクトではないといえる買い手を見つけたといえるでしょう。

 
 

フェーズ3:買収後の困難と成長

買収契約後、あなたは事業主ではなくなります。その事実は脳に刻み込んでおく必要があります。買い手企業が事業主であり、将来的な事業収入もすべてその企業のものとなるのです。最終的にはその事業を成長させる責任も買い手企業にあります。あなたに事業との関係性を継続してほしいと先方が望む場合、あなたの仕事は中間管理職になることです。

通常、この移行に伴い、買い手企業が過半数票を占める新たな理事会が発足します。販売収益や経費などの月間KPIも買い手企業に報告するようになります。時には買収した側の大企業から「これだけの予算を割り振るので、最大限に活用して好きなようにしてほしい」と言われることもあります。

もっと管理が厳しく、予算の使い方にルールがある場合もあります。たとえば、「この金額以上は理事会の承認が必要」などです。

中間管理職になるということは、何をしているか逐一コミュニケーションをとらなければいけないということです。買い手企業はかなり高額の買い物をしたのですから、報告をする責任があるのです。先方には何が起こっているかを知る権利があります。積極的にこちらからコミュニケーションをとらないでいると、向こうからのフォローアップが増え、マイクロマネジメントの方向に向かうでしょう。どちらがいいと思いますか?

あなたのスタートアップを買収した企業は、多くの金額を投資し、リスクを冒し、買収実現のために社内でも一部の人々を説得しなくてはいけなかったはずです。だからこそ、今、事業がどうなっているのか、どのようにサポートできるかを知りたがるのです。当然ですが、あなたの事業に成功してほしいのですから。それは、あなたの事業が成功すれば、買収を支持した人たちが正しかったことの証明になるためです。

重要なので、もう一度繰り返します。あなたはもう、この事業の事業主ではないので、好きなことを好きなようにはできないのです。ある意味では、買い手企業を新しいVIP顧客だと考えるといいかもしれません。社内情報の多くを共有する顧客のように扱うのが最適でしょう。顧客パートナーとの関係に似ているかもしれません。

覚えておいてください。あなたが報告する人は、またその上に報告すべき人がいる可能性が高いでしょう。彼らの質問は、おそらく彼らが上から聞かれている質問です。つまり、お互い同じような立場だということです。

彼らの仕事を楽にするために何ができるか考えてみましょう。どのようにサポートしてもらえば自分の仕事に役立つかも考えましょう。そうすれば、お互いに良い結果を報告することができます。

 
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重要ポイント:報告する担当者と率直な関係を築く

報告する担当者と友好的な関係を築くことに注力しましょう。ひどいことや恥ずかしいと感じることが起こった時も、正直でありましょう。これまでは上司やVC投資家とそこまで多くの情報を共有する必要はなかったかもしれません。ですが、M&Aの状況では、将来的により大きな問題につながりそうなことについてははっきりと先手をとって伝えるのが最善です。「こんな問題が起こるかもしれません。軌道修正ができるかもしれませんが、今、何かが起こっているということと、対策をとる必要があるかもしれないことをお知らせしておきたかったんです」

また、次のように言いたくなる時もあるかもしれません。「事業計画で最初に決定したよりも多くの予算が必要になると思います」。これはタブーではありません。買い手企業の予算がどこかで余っている可能性もあるからです。その場合は事前に同意したKPIと予算があったとしても、市場の動向の変化や事前に予測不可能なことが起こったことなどを説明すれば良いだけです。他の部門から追加の予算を持ってきて割り振ってくれる可能性もあります。

ある事業計画に同意したからといって、それが現実的ではないと気づいた時に助けを求めてはいけないというわけではありません。そういった報告は喜ばれないかもしれませんが、共有して一緒に対応策を考える方が黙ったままで目的達成に失敗するよりも得策です。

率直でオープンな関係を目指しましょう。そのために、先方と飲みに行くのもいいでしょう。強引な企業買収でなければ、通常、M&Aのプロセスを経る中で両社の関係は極めて親密なものになっていきます。ですが、その後、その関係性を緊張させるかもしれない質問をするのは難しく感じるかもしれません。

ちょうど、恋愛で付き合い始めたばかりの頃のような、微妙に気まずくなるような話題は持ち出したくないという感じです。その気持ちを乗り越えて、オープンにコミュニケーションをとる必要があります。そうすれば、向こうも同じようにオープンに接してくれるでしょう。

担当者は他の事業ラインにも責任があるため、通常、非常に忙しいはずです。あなたの事業は、彼らのメインの仕事に加えてこなさなくてはいけない業務です。ですから、飲みや食事、おしゃべりに誘われるまで待っていてはいけません。ラポールを築くのはあなたの仕事です。積極的に、担当者を食事や飲みに誘いましょう。もちろん相手は忙しい立場ですが、それにおじけづかないようにしましょう。


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