世界の観光客と素晴らしいグルメスポットをつなぐ架け橋【前編】

20歳で日本に留学し、ゴールドマン・サックスのプライベートバンキング部門に勤務し、スタンフォード大学でMBA留学もしていたLu Dong(董路)さん。2004年に中国に帰国し、2社のベンチャーを立ち上げた。2014年に日本に拠点を移し、起業。2016年4月にベータ版をローンチ予定の「日本美食」というアプリのベータ版を開発し、新たな挑戦に臨む。

日本美食というアプリを開発されているとのこと。まずは、アプリの特徴について教えてください。

Lu Dongさん(以下、Lu ): 私たちが開発しているのは、外国人観光客向けに日本の飲食店を紹介するアプリです。現在、中国や韓国、台湾をはじめ日本を訪れる外国人観光客は2000万人にのぼり、どの業界もインバウンド需要で潤っています。しかし、日本の飲食業界は、こうしたチャンスを活かしきれておらず、次の3つの「ペイン・ポイント(悩み)」を抱えていることに気づきました。 

どのようなペイン・ポイントでしょうか。

Lu : 1つ目は、コミュニケーションの問題です。街中の公共機関や地図では、外国語での表記が増えていますが、レストランなどでは、看板もメニューも外国語に対応していないところがまだまだ多いのが現状です。お店を探すにも、オーダーをするにも一苦労という外国人観光客がたくさんいます。2つ目は、店の選択肢が多すぎて、良い店に行きたいのに探す方法がわからないという問題です。東京の飲食店の数は世界一と言われており、ミシュランのついたレストランの数も圧倒的首位の座にいます。そして、日本に住んでいる人向けなら、お薦めのお店を紹介するアプリやメディアは数多くありますが、観光客向けには、そうしたサービスは現状、ありません。何より、日本に旅行するのは非常に貴重な機会ですから、「味もおもてなしも普通の店」ではなく、「ずっと思い出に残り続ける店」に行きたいですよね。ですが、都内だけでも約16万件に及ぶ飲食店から、それほど感動的なお店を見つけるのは至難の業でしょう。3つ目は決済の問題です。日本では中国と比べて、現金や、クレジットカードでしか支払いができない飲食店が多いのです。世界ではモバイル・ペイメントが隆盛しつつあり、例えば北京だと、財布をもたずにスマートフォン一つでタクシーに乗れるのが日常の風景になっています。この感覚に慣れて来日すると、日本での支払いがどうしても不便に感じられてしまうのです。2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客が増え続けるのは間違いないでしょう。コミュニケーション、ディスカバリー(良い店の発掘)、支払いという3つのペイン・ポイント。これらの課題を日本美食によって解決し、高度な付加価値を提供することが、私たちの使命だと考えています。 

素晴らしいコンセプトですね。日本美食のアイデアをどのように思いついたのでしょうか。

Lu: 2014年、妻の妊娠を機に、より過ごしやすい環境に住もうと北京から東京へと拠点を移したことがきっかけです。すると、中国の友人知人がたくさん日本に訪れ、私はガイドを頼まれることが増えました。子どもが産まれてから忙しくなったので、かわりに、おすすめの飲食店や観光スポットの情報をPPTにして送ったんです。するとこれが大好評で! 「この情報をアプリにすれば、もっと多くの観光客が喜ぶのではないか」と気づきました。そのうえ、観光客向けの類似のアプリは日本にも中国にも見つからない。実はレストランを探すロジックは、海外からの観光客と、地元にいる日本人では全然違うのです。日本のグルメアプリだと、希望地の駅名を入力しないといけないけれど、そもそも観光客は最寄り駅の名前がわからないので検索しようがありません。こうしたアプリは地元の人の視点に立ってつくられているからやむをえないのです。私は20代のときに日本の大学に通い、日本で就職して10年間日本に住んでいた経験があります。そこで、日本と中国、両方の感覚を知っている私なら、両者の橋渡しをするサービスをつくれるのではないかと思い立ちました。 後編に

つづく